日本/2005年/96分
得意なビックリ演出の「点」をちりばめ、点と点を結んで「恐怖」という「図」を徐々に浮かび上がらせる卓越した構成・演出が見所。優香の演技だけでも一見の価値は十分にアリ。アメリカンホラーの方程式を覆す究極の恐怖とは?
ストーリー(概要)
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昭和45年。群馬のホテルで客と従業員合わせて11人が殺された。
それから35年後。ひとりの映画監督がこの事件を映画化すべくキャストを揃えて撮影に臨む。
ヒロイン役の新人女優・渚はホテルの殺人事件に関係すると思われる幻覚を見たり、フラッシュバックのようなシーンを見たりする。
一方、女子大生・弥生はよく見る夢に出てくるホテルへ向かう。
全国で多発する行方不明者たちも「ホテル」へと導かれるように向かっていく……。
主な登場人物の紹介
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△渚
新人女優
△弥生
女子大生
△松村
男性。映画監督。映画「記憶」の監督。
コメント・レビュー(Comments・Review)(論評、批評、意見)
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得意なビックリ演出の「点」をちりばめ、点と点を結んで「恐怖」という「図」を徐々に浮かび上がらせる卓越した構成・演出が見所。優香の演技だけでも一見の価値は十分にアリ。アメリカンホラーの方程式を覆す究極の恐怖とは?
■ ありがちな題材を戦略的に使う
「輪廻転生」とは、生まれかわること。車輪が回転するように魂が生と死の世界をめぐること。
わたしの前世は誰ですか?
毛じらみです。
こんな答えがかえってきたらヘコみますね(誰?ってきいてるのにぃ(>_<))
人は自分に興味があります。占い師に「あなたの前世はフランスのお姫様です」と言われれば思わずニヤリとしてしまうでしょう。たとえその姫が民衆の怒りをかって断頭台に消えたとしても……(←マリ・アントワネット)。
生まれ変わり、つまり輪廻という題材はそれを信じるか信じないかは別としても、東洋社会ではポピュラーです。そんなありがちな題材を使うのは利点があるからです。
「ありがち」ということは、それだけ多くの人が関心を持っているということです。
さらに「ありがち」と思わせておいて、そこに新鮮な風(視点、切り口、組み合わせ)を送り込ませれば、たとえ微風でも観客は「意外性」を持った特別な風と感じます。
以上の2点は日本国内マーケット向けの「ありがちな題材」を使う利点です。
では海外マーケット向けの利点とはなんでしょうか?
■ 逃れられない運命という恐怖
ここでいう海外マーケットとは主にアメリカ合衆国のことです。ハリウッド映画の多くには共通したメッセージが込められています。それは「運命は自分の手で切り開くものだ」というものです。どんな困難や苦難に遭遇しようとも、主人公は自ら行動して己の道を作っていく。観客はそういった主人公に拍手を送るのです。
これを逆にみれば、どんな困難や苦難に遭遇しても、実際にはほとんどの場合はどうすることもできないということを表しています。個人の力などちっぽけなもので、たとえひとりでがんばってみたところで大きな流れ(運命)は変えられない。それが現実といってもいいでしょう。
だからこそ、映画では「自分の手で切り開く」という「希望」を提示するのです。はじめはひとりでも、やがてその「希望」に共感する人が増えてくると、やがてそれが大きなうねりとなって「困難・苦難という運命」に対抗する「大きな流れ(運命)」を作りだすことができるだ、というメッセージを示すのです。
ところが「輪廻」の恐怖の根本は「運命からは逃れられない」ところにあります。これは特にアメリカ人にとっては辛すぎます。自分にとって良くないと思えるような運命から逃れられないなんてことは、現実世界にイヤというほどあります。いわば日常です。そんなときに映画でも観て気分転換でもして楽しもうぜぃ、なんて思って観た作品が「運命から逃れられない」ではあまりに辛すぎます。
いわゆるアメリカンホラー(スプラッタ含)の基本は、主人公が(たいていボインちゃん)が仲間と遊びに行った先で殺人鬼に襲われてひとりまたひとりと殺されながらも、最後は生き残るというものです。
「生き残る=襲われて死ぬ運命を変える」ということです。
これをしっかりおさえてください。「輪廻」の究極の恐怖を解く鍵ですから。
アメリカンホラー
「蝋人形の館(HOUSE OF WAX)」作品レビュー
運命から逃れられない系ホラー
「ダークネス」作品レビュー
■「輪廻」の究極の恐怖とは?
アメリカンホラーの方程式をしっかりおさえたなら「輪廻」の究極の恐怖をより一層体感できます。
自分にとってよくない運命から逃れようといろいろ行動しながらなんとか最後に生き残ることが「運命を変えられた」という救いになっているのがアメリカンホラーの基本です。
ではアメリカンホラーの基本と同じになりながらも、それだったら「運命は変えられないまま」のほうがまだマシなのでは? と思ってしまうかもしれない衝撃のラストは、アメリカンホラーの方程式を根底から覆しているという意味で、あまりに恐ろしいものとなっています。
この恐怖のすべては「輪廻転生」という言葉に表れています。
輪廻転生とは、車輪が回転するように魂が正と死の世界をめぐること。
いうなれば、ほんとうの「恐怖」とは「めぐる」こと。めぐりつづけるものには●●●がありません。
この●●●がないことをマイナスに捉えると「究極の恐怖」となるのです。
■ クライマックスへ集約する重層構造
清水崇監督は、カットバックとフラッシュバックを使って、観客の視点を「登場人物たちと時間軸」を無重力状態かのように移動させつつクライマックスへ向けて迷わないようにナビゲートする、というとんでもない技を使っています。
(カットバックとは、異なる場面のシーンを交互に映し出すことによって臨場感や緊張感を高める演出効果のことをいいます。これはクロスカッティングともいいます。フラッシュバックとは、非常に短い間隔で異なる場面のシーンを切り返すことをいいます)
まず、渚がホテルの殺人事件を題材とした映画「記憶」の登場人物を演じます。その頃、女子大生・弥生は事件のあったホテルを探し当て、その建物の中に入っていきます。さらに渚のマネージャーの男が、手に入れた8ミリフィルムを映写機にかけて観賞します。
この3つの異なる場面をカットバックしながら、35年前の事件の真相が徐々に明らかになりながらクライマックスへ向かっていきます。
さらに渚はスタジオのホテルのセットで犠牲者の一人の少女の役を演じている最中に、それまでフラッシュバックで幾度も断片的に見てきたで35年前のホテルで起きた出来事を、今度は長く見続けます。
一方、女子大生弥生は事件のあったホテルに足を踏み入れて、フラッシュバックで35年前の出来事を垣間見ていきます。
さらに渚のマネージャーは、35年前のホテルでの出来事を8ミリフィルムを観て知ります。
このように、3つの「場所」のカットバック(渚、弥生、マネージャー)に、3つの「時間」のフラッシュバック(長いものを含)を絡めています。
もっとスッキリした言い方をすれば「6つの場所と時間を行き来するカットバック」でクライマックスを盛り上げているのです。
■ 現在・過去・場所 ⇒ 多視点
映画の撮影風景ってなかなか見れませんよね。
どんなふうに撮影しているのかな? というのは興味がそそられるところです。そのあたりの好奇心をうまく刺激しながら映画「記憶」の撮影という設定で物語が進んでいきます。
映画「記憶」の撮影の準備・進行と共に35年前の殺人事件の情報を観客も徐々に得られるようになっています。観客は主人公・渚と共に徐々に情報を得ていくように工夫されているのです。
さらにホテルの内部を再現したセットでの撮影風景は「6つの場所と時間を行き来するカットバック」でクライマックスを盛り上げるための仕掛けのひとつとなっています。
現在と過去。これだけなら普通です。「輪廻」では現在と過去に加えて「場所」を3つ設けて視点を増やし、さらに「過去の記憶」と「当時の映像」を交えた多角的・多視点を複雑に絡めつつ、クライマックスへ突き進んでいくのです。
■ 点から線へ そして図へ
清水監督の過去のヒット作といえばアメリカでNO.1ヒットを記録した「THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)」が有名です。
これは、いうなればビックリ箱です。おばけの怖さでいかにビックリさせることができるか?「ワァびっくりしたなぁ(>_<)」というのが「売り」なので、まるで遊園地のお化け屋敷やジェットコースターかのようにワイワイと楽しめます。これはびっくりさせる「点」を文字通り「点在」させた作品です。
一方「輪廻」では「びっくり演出」の技術をじゅうぶんに活かしつつも、サスペンスやミステリーの要素を取り入れてストーリー性を強調して恐怖を増幅させています。
びっくりという「点」をちりばめつつ、その点と点を結んでいくと「恐怖」という「図」が徐々に浮かび上がってきます。
おそらく「呪怨」シリーズは、監督の頭の中には完璧なストーリーがあったのでしょう。しかし作品の「売り」を考え、あえて日本のお化けの怖さ表現するために「笑い」の要素を入れたビックリ演出に絞って「呪怨」を作ったのだと思います。
「THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)」作品レビュー
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呪怨関係の補足とまとめのレポートはこちら
『「THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)」徹底解説〜ハリウッドがジャパンホラーを買いたがる理由〜』
ジャパンホラー大ヒットの秘密を徹底解説!エンターテイメントホラーの傑作映画「THE JUON/呪怨(THE GRUDGE)」がハリウッドでヒットした理由とは?ビジネスマンも必読のマーケティング手法満載。
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■ 空間の使い方が秀逸
清水監督の得意技のひとつに「空間の使い方」があります。
「呪怨」では階段を這って下りてくる幽霊というシーンがありました。
「輪廻」ではホテルのロビーのシーンで空間を上手に使っています。
映画の出演者たちが事件のあったホテルを撮影クルーたちと一緒に訪れたときのことです。事件の犠牲者役のひとりひとりが、35年前の犠牲者が倒れていたのと同じ場所に同じように倒れてみるよう監督から指示されます。役者たちが言われたとおりにしてみたその様子を、撮影スタッフが資料用に写真を取ろうとシャッターを押します。
そのシャッターと連動して、渚には一瞬だけ35年まえの犠牲者の姿がフラッシュバックするのです。――とそのときです。渚の背後上方、吹き抜けのロビーの二階の廊下にサッと人影移動します。カメラは渚を正面からローアングルで捉えているので、観客には渚の背後の上方、つまり二階の廊下が見えるのです。
渚の背後という「平面」ではなく、背後上方という「高さをもった空間的広がり」を持たせているところがポイントです。
この手法は、弥生の大学の図書館で若い女性が行方不明になるシーンにも効果的に使われています。このときのカメラの位置に注目してください。若い女性が消えていく方向は「上」です。しかし女性が完全に消えてからカメラが上方にひいていくと、ズラッと並んだ本棚の上方にはなにもない空間がひろがっているのがわかります。これは、若い女性が空間を移動したために消えたのではなく、異世界へと消えたことを暗示しているのです。
「人が消える」シーンはおそらく四谷怪談の「仏壇返し」を元にしたものでしょう。さすがに現代日本を舞台にした作品で仏壇はそうそう登場しませんから、代わりに「空間」を上手に利用しているのです。
こうして「6つの場所と時間を行き来するカットバック」に加え「空間」をも操る巧の技を披露しているのです。
■ 配役のインパクト
主人公・渚役に優香。
監督によると「意外性」を狙ったとのこと。これはズバリ的中!ですね。
志村けんの番組の常連でもあり、バラエティタレントとして人気の優香の恐怖にひきつる顔というのを、テレビで観たことがありますか?おそらく、ほとんどの方はいままで観たことのない優香の一面を見ることができます。
そして優香は若さに溢れています。活力がみなぎって生命力に溢れています。ここがポイントです。例えば、人生に疲れきったかのような活気のない登場人物が恐怖におののくシーンを観るのは辛いものです。観客は恐怖よりも辛さという疲労感を募らせてしまいます。
そうならないようにホラー映画の主人公はたいてい若くてキュートな女性となっています(なぜか巨乳でもある)
恐怖におののくにもエネルギーが要ります。みなぎる活力をふり絞って怖がるシーンならば、観客にとって「辛く」はありませんので「恐怖」の対象へ自然に意識を向けることができます。
優香もホラー映画の主人公の要件を満たしています。さらに普段のテレビ番組ではまず見ることのできない表情をします。
そしてなにより、優香の演技が上手なのです。ひょっとして優香ってバラエティよりこっちのほうが向いているんじゃないか? と思うほどです。
特にラストの演技は天性(?)のものを感じました。
■ ひとこと
私が特に怖いなと思ったのは、試写室で映像を見ながら微笑む老婆のシーンです。
清水崇監督は、日本人監督としてはすでにズバ抜けた感がありますね。
古典的ホラー作品へのオマージュともいえるような要素も取り入れています。ロメロ監督作品の題材の使い方としては、なるほどその手があったか! と思わず唸りました。ちょっと「チャイルドプレイ」も入っているかな。
作品の構成がとても複雑なのに、ちゃんと観客にわかるようになっています。それでいてクライマックスへ向けて緊張感がどんどんアップしていく。謎も解けるようになっています(謎というほどでもありませんが……)。
とにかく細かい小道具(人形)から伏線まで、あらゆるところが綿密に計算されています。
こんなに巧妙に凝った作品をよくもまぁ撮れたものだということで、ほんとうに恐ろしいのは清水崇監督の力量かもしれませんね。
(輪廻天使を題材にした作品には他に「愛と死の間で」という作品もあります)
俳優ファン ◎ 優香の演技だけでも一見の価値アリ!
ファミリー −
デート △ 相手の好みに依る
フラっと ○ 期待してないぶん、インパクトは倍増
脚本勉強 ◎ カットバックの究極形(?)
笑い △ ちょこっとあるかも
リアル追求 −
謎解き △ ミステリーファンにはやさしすぎる仕掛け
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